Hirai Takayuki

2-8 モデル作成のガイドライン

2-8 モデル作成のガイドライン

以下の説明で、重要な箇所はアンダ-ラインを付けている。また以下で説明するモデルの入力デ-タは、モデル番号にMを付けた名前のファイルとして、計算結果はモデル番号にRMを付けた名前のファイルに収納している。

 

2-8-1 モデル作成の注意点

計算結果に含まれる誤差を小さくするためには、下記のことに注意してモデルの作成を行う。

1)適切なブロック分割

材質や厚さの違う部分は必ずブロックに分割するが、材質や厚さが同じ部分でも適切にブロックに分割する。そのとき下記に注意する。

・細長い形状のブロックにしない。

・同じブロック上の境界は、できるだけ離れるようにする。例えばキレツのある場合は、きれつにそって2つのブロックに分割する。

2)適切な要素設定

・同じブロックでは互いに接合、交差、重複する要素を設定しない。

・要素の長さは、その要素の近傍の領域の幅の少なくとも1/2以下とし可能であればより小さくする。

・変位や応力度の値を求めたい箇所の近くの境界は、短い要素を設定する。

3)適切な境界条件の値

要素に与える表面力または変位は、要素上で合計と1次モーメントが元の問題に与えられた境界条件に等しい線形の分布になるように表す。このことは、計算結果の精度を向上する上で非常に重要である。

なお表面力はブロックの全厚さにおける値で表すことに注意する。

4)要素数と計算時間

計算結果の精度は、基本的にはモデルに設定した要素が多いほど向上するが、モデルの設定の稚拙に左右される所が大きい。極端に要素数の多いモデルは数字の有効桁数に起因する誤差が出やすくなるので避ける。

計算時間は、パソコンの種類により異なるが、一般に要素数が多い場合でも十数秒である。

 

2-8-2 梁の曲げ

図2-12は、中央に載荷された梁のスパン中央下のG点におけるたわみと引張応力度(曲げ応力度)を解析するための3つのモデルである。

解析したいG点の付近の要素を短く設定している。このように応力度の値を計算する箇所の付近で要素を短くする場合は、隣合う要素の長さの比が1/2~2の範囲にあるように、次第に長さが短くなるように要素を設定する。HやFの要素は、Gから離れているので急に短くなってもよい。

モデル204は、HとFの要素で、要素に垂直な方向の変位を要素全長にわたって0としたため、垂直方向の反力の分布状態による偏心で値は小さいが全体の誤差の原因になるようなモ-メントが生じている。

モデル205は、要素HとFの反力の分布によるモ-メントが生じない変位を境界条件として与えたものであり、スパン中央のGの位置に設定した内点で計算した引張応力度は、表2-9のようにピン支承の場合の理論値(3-8-11項参照)と比べて差が小さい。

モデル206は、対称性から半分に分割したモデルであり、この場合はCに集中荷重を与えられない。誤差がやや大きいのはGが要素の端になったためと、前述のHにおけるモ-メントの発生が原因である。

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モデル204

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モデル205(HとFの境界条件がモデル204と違う)

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モデル206

図2-12 梁の曲げの3種類のモデル

 境界上の1点で変位を指定し反力を集中荷重として求めることはできない。変位を1点で指定したい場合は、図2-12のHやFのようにその点を含む長さの小さい要素を設定し、その要素上で線形に分布する適当な変位を与えることになる。この場合の反力の計算結果は、その要素上で分布する値になる。

内点を境界上や境界の付近に設定するときは、要素の端からはなれた中央部分の誤差が少なく、要素の端は誤差が大きい。

要素の端部すなわち要素と要素の切れ目の値S0は、図2-13のようにその位置から領域の内部に等間隔で設定した内点の値S1,S2,S3 を計算し、2次関数で外挿した値 S0=3S1-3S2+ S3を利用する。

 

表2-9 モデル204~206の精度

支承部Hの鉛直  中央下面G点  中央下面G点

方向反力の合計    のたわみ        の引張応力度

理論値     50.0    18.6    71.7

モデル204      50.3        18.5    70.5

モデル205      49.8        19.0    72.0

モデル206      49.9        18.6    70.7

 

 

 

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図2-13 要素の端の値Soを領域内の値S1、S2、S3 から推定

 

 

2-8-3 集中荷重

モデル204のように、集中荷重を境界条件に与えることができる。ただし、集中荷重を与えることができるのは、ブロックが1つのモデルにかぎる。この場合の集中荷重は要素の中点に作用するものとし、入力デ-タは集中荷重を与える要素の境界条件の種類(表2-1のN62)に-1を入れ、集中荷重の大きさは要素の個別座標のx方向とy方向に分解してその要素の始点の値(表2-1のC65とC67)に入れる。

なお、集中荷重の問題は2-7節の方法で内部の変位と応力度計算し図形表示することができない。また2-5節の方法で要素の変位と表面力の計算結果を図形表示したときに、集中荷重は集中ではなく作用している要素の上で三角形に分布する荷重として出る。

 

2-8-4 キレツ先端の応力拡大

図2-14は中央または両端部にキレツのある平板に引張応力が作用している問題であり、図2-15はそのモデルである。対称性を考慮して、領域の1/4のABCDEの部分について、モデル207と208を設定する。これらの2つのモデルは要素分割が同じで、境界条件が違っている。

キレツのある問題のモデルは、キレツを含む線分で領域を分割し、ブロックに分けてモデルを設定する。

キレツ先端のEの付近では応力の分布が急激に変化するので、図2-15のように短い要素を設定する。キレツ先端から数えて2つずつの計4個の要素に設定した内点は大きな誤差を含むので、キレツ先端から3つ以上離れた要素の中央に設定した内点の計算結果を採用する。これらの内点の変位と応力度の計算結果を開口型の応力拡大係数K1の計算式に代入すると、表2-10のようになる。

表2-10のK1の値を、キレツ先端からその内点までの距離を表す図2-16のr1とr2を横軸にして表すと図2-17になる。図にはr1とr2が限りなく0に近づいたときの値を、2次関数の外挿により求めて理論値と比較している。

キレツ先端から片側2つ合計4つの要素には大きな誤差が含まれるので、この上に設定した内点の変位や応力度の計算結果は使えない。

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図2-14

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図2-15

 

 

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図2-16 キレツ先端の要素設定

 

 

 

 

 

 

表2-10 キレツ先端付近の計算結果と応力拡大係数

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図2-17 応力拡大係数の計算

 

 

2-8-5 円孔のある平板

図2-18は半径5の円孔のある平板が遠方でY方向に均一な引張応力を受ける場合のモデルである。円孔の境界は正30角形(長さ1.045の1辺が1要素)とし、内点を設定するX軸の正の部分に近い境界に短い要素を設定している。X軸上にある要素の長さが一番短く0.262であり、要素の中点がX軸上に位置し、その中点に円孔の境界上に位置する内点を設定している。

モデル209は有限板であり、モデル210は無限板に円孔1つであり、モデル211は無限板に円孔2つである。図2-19はX軸の正の部分に設定した内点のY方向垂直応力度の計算結果である。円孔が1つの無限板の場合は、X軸上に位置する円孔の縁のY方向垂直応力度の理論値が、無限遠で作用する均一な引張応力度10のちょうど3倍の30になる。モデル210の計算結果では、この値が29.89である。

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図2-18 円孔の引張り

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図2-19 モデル209~211の計算結果

2-8-6 無限領域問題

モデル210のように、無限領域問題を計算できる。無限領域問題は、無限遠で与える均一な応力度の値(表2-1のC14、C15、C16)を入力デ-タに入れることにより、有限領域と同じようにモデル入力デ-タを作成すれば計算できる。ただし、ブロックに分割することができずブロックを1つにしなければならない。なお、開口の境界上の要素の番号が左まわりの順番になることに注意する。

 

2-8-7 せん断応力の作用する片持ち梁

図2-20は円孔とキレツのある梁の先端に鉛直方向の荷重が作用している問題であり、3つのブロック

に分割したモデル212を設定する。図2-21のように、梁先端に作用する放物線分布の鉛直荷重を、境界条件として与えるためにEFにある要素上で線形の形に分布する表面力に置き換えている。

図2-22はブロックごとに、表面力の計算結果の力の釣合を検算したものである。支柱の固定部のAIにおける上向き反力の誤差が一番大きく2.3%(681.8と666.7の誤差)である。

 

 

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図2-20 キレツと円孔のある梁とそのモデル212

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図2-21

 

 

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図2-22 モデル212の計算結果の誤差の検算

 

 

 

 

 

2-8-8 境界条件の要素上での線形分布への置き換え

図2-23は、実線のように分布する境界条件を、点線のように要素上で線形に分布する値への置き換える方法を説明している。長さ2kの要素上で分布する表面力または変位の値の合計をF、要素の中心に関する1次モーメント(表面力または変位と要素の中心からの距離の積の合計)をMとすると、合計と1次モ-メントが等しい線形分布に置き換えたときの要素の左端の始点の値は(F-3M/k)/2kであり、右端の終点の値は(F+3M/k)/2kである。

なお表面力はブロックの全厚さにおける値で表すことに注意する。

先の図2-21の表面力は、このようにして置き換えたものである。

 

 

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図2-23 境界条件の要素上での線形分布への置き換え方法

 

 

 

 

 

 

 

2-8-9 温度応力

図2-24は、図2-25に示すタイルを張付けた鉄筋コンクリ-ト壁について、対称性から灰色に塗った部分を取り出し、タイルの温度が10℃上昇したときの温度応力を計算するモデルである。Aの付近に生じる大きな応力を計算するためにAの付近の境界を細かく要素分割している。

このモデルでは、タイルが全く拘束されずに10℃温度が上昇し自由に膨張したときの歪度0.0001を、タイルのブロックの初期歪度として入力デ-タ(表2-1のC35)に与えることにより計算できる。

図2-26は、タイルとコンクリ-ト壁の張付け面のA点近傍に生じる面に垂直な応力度の計算結果である。目地モルタルの幅が0.5cmの場合のモデル213の入力デ-タと計算結果を、①ディスク9791に収納している。 なお温度分布が複雑な場合は、3章の有限要素法で計算する方が適当である。

 

2-8-10 乾燥収縮応力

乾燥収縮や吸湿膨張により生じる応力は、温度応力の場合と同様にモデルのそれぞれのブロックが拘束されずに自由に収縮膨張したときの歪度を、初期歪度として入力デ-タの表2-1のC35に入れることにより計算できる。

 

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図2-24 モデル213

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図2-25 タイル張付の壁

 

 

 

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図2-26 張付け面のA点近傍に生じる面に垂直な応力度の計算結果

 

2-8-11 接合境界と接触境界の物体力または変位のずれ

接合境界では、接合される要素間に変位のずれおよび物体力(外部から作用する応力)を与えることができる。接触境界では、境界に垂直な方向の変位のずれおよび平行な方向の物体力を与えることができる。

図2-27は接合境界DH上で物体力を与えたモデル214であり、図2-28は接合境界CF上で境界に垂直な方向の変位のずれ(開口に相当)を与えたモデル215である。これらの物体力と変位のずれは、次のように入力デ-タに入れる。

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理論値 δx=X(Y-10)/200           ブロック①~③いずれも平面応力状態

δy=-{X+0.25(Y-10)}/400    ヤング率 100

σx=Y-10  σy=0   τxy=0      ポアソン比0.25

図2-27 物体力を与えたモデル214

       2_8_20

理論値 δx=X/5      X≦20     σx=100/あつさ

δx=0.5+X/5  X≧20     σy=0

δy=剛体変位-Y/20         τxy=0

ブロック① ヤング率 100  ポアソン比0.25  厚さ 5  平面応力状態

ブロック② ヤング率 480  ポアソン比0.2   厚さ 1  平面ひずみ状態

図2-28 変位のずれを与えたモデル215

   物体力    接合された2つの要素のうち、小さい番号の要素の境界条件の値に、その小さい番号の要素から見て物体力を図2-29の符号で入れる。ここで、物体力はブロックの全厚さにおける値で表す。

変位のずれ  接合された2つの要素のうち、大きい番号の要素の境界条件の値に、その大きい番号の要素から見て変位のずれを図2-30の符号で入れる。

通常は、物体力も変位のずれも0で与えられている。すなわち接合境界は、接合された要素の表面力がx方向とy方向のいずれでも釣り合い、変位がx方向とy方向のいずれでも同じになる。接触境界では、接触する要素のx方向の表面力がそれぞれの要素で0になり、y方向の表面力が釣り合い、かつy方向の変位が同じになる。

 

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図2-29 物体力の方向と入力デ-タの符号

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図2-30 変位のずれの方向と入力デ-タの符号

 

図2-31の(a)はキレツの開口を閉じるのに必要な応力、(b)は閉じたキレツにクサビを打ち込んだときに生じる応力、(c)はキレツを閉じるような結合力とキレツの閉じる量の関係、(d)は表面の形状が異なる2つの物体が押し付けられたときの接触面の変形と応力を表している。これらの値は、ABの部分を接触境界として計算することで求めることができる。

 

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図2-31

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