Hirai Takayuki

3-8 モデル作成のガイドライン

3-8 モデル作成のガイドライン

以下の説明で、重要な箇所はアンダ-ラインを付けている。またモデルの入力デ-タはモデル番号にMを、計算結果はモデル番号にRMを付けた名前のファイルに収納している。

 

3-8-1 要素の形状

要素の形状は、4つの頂点と4つの辺をもつ四辺形とし、頂点の角度は180度より十分小さくする。2つの辺を折れ目のない滑らかな曲線や直線につなぎ、三角形の形状にした要素や、1つの頂点の角度が180度より大きい凹の形の要素でも計算できるが、大きな誤差を含むことがあるので、これらの形状の要素は不適当である。

 

3-8-2 要素分割

計算結果の精度は、一般にモデルに設定した要素が多いほど向上するが、極端に要素数の多いモデルは数字の有効桁数に起因する誤差が出ることがある。

計算結果に含まれる誤差を小さくするためには、応力が急激に変化する部分に細かく要素を設定する必要がある。

 

3-8-3 計算できないモデル

1)剛体変位を生じるモデル

回転または平行移動を起こすような節点の変位を与えたモデルは計算できない。

2)釣り合いを満足できないモデル

変位を与えた節点の所に、どのような節点力を与えても、釣り合い条件を満足できないようなモデルは、計算結果は意味がなく使えない。

3)節点数が限度を越えたモデル

節点の変位と節点力を計算するF2D1000.EXE~F2D8000.EXEのファイルは、それぞれ1000以下~8000以下の節点数のモデルを計算できるので、これを越える節点数のモデルは計算できない。

また3-4-1項で説明したように、ハ-ドディスクの容量に収まるデ-タ量を越えるような節点数の多いモデルは計算できない。

3-9節の単精度計算によれば、同じハ-ドディスクの容量で節点数のより多いモデルを計算できるが、単精度計算は数値の有効桁数が小さく、計算結果に含まれる誤差が大きくなることがある。

容量不足の場合は、節点数を減らしたモデルにするか、ハ-ドディスクの容量の大きいパソコンを使う必要がある。

 

3-8-4 節点の変位

節点の変位は、問題に条件として与えられた節点の位置の変位をそのまま用いる。なお、モデル全体が平行移動や回転ができないような変位の条件を、必ず節点に与えなければならない。

 

 

 

 

3-8-5 節点力

節点力は、問題に与えられた外力を置き換えたものであり、その置き換えには以下の説明のような注意が必要である

1)均一に分布する表面力

図3-9は、均一な引張応力の生じている平板である。このような均一に分布する表面力は、要素の頂点の節点に1、辺の中央の節点に4、の割合で、合計が同じになる節点力に置き換える。図3-10では、辺の中央にある節点の節点力の大きさを4とすると、上下の頂点の節点力は要素1つ分で1、2つの要素が共有する頂点の節点力は要素2つ分で2になっている。

2)分布状態が均一でない表面力

表面力の分布状態が均一でない場合は、合計が同じになる適当な節点力を与えたモデルを作成して節点の変位と節点力を計算した後、表面力が分布する境界上の応力度(要素の内部の応力度でF2DSD.EXEまたはF2DR2.EXEで計算する)を計算し、それが境界条件として与えられた分布状態に近似するようモデルの作成を繰り返す。

節点の変位が分かるかまたは推定できる場合は、その変位を与えたモデルを作成し、計算結果として得られる節点力が、問題に与えられたものを近似する有力な値になる。図3-11は、材質の異なる部分が接合したものに純曲げの応力が作用した場合であり、応力度と変位は理論式で求まるようにした問題である。左端と右端の境界には線形に分布する表面力が作用している。左端と右端の境界にある節点に、変位を与えたモデル305とモデル306で計算した節点力は、図3-12と図3-13になる。

 

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図3-9 均一な引張応力の平板

 

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図3-10 均一な引張応力を置き換えた節点力の割合(モデル304)

図3-12のモデル305のように、三角形分布をする表面力は、要素の頂点の節点に1、辺の中央の節点に2、もう一方の頂点の節点に0の割合の大きさで合計が同じになる節点力に置き換える

図3-13のモデル306の場合は、図3-14に示すように等分布と三角形分布に分けて節点力の割合を出し、それを合計して求められる。

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理論値    E:ヤング率  t:厚さ  ν:ポアソン比

AC間でδx=0,B点でδy=0として    σx=Y/t   σy=0   τxy=0

X≧0のとき δx=(X+20)Y/(Et)  δy=-{(X+20)+νY}/(2Et)

X≦0のとき δx=(1-ν)(X+20)Y/(Et)

δy=-{(1-ν)(X+20)+ν(1+ν)Y}/(2Et)

図3-11 純曲げの問題

 

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図3-12 モデル305

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図3-13 モデル306

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図3-14 モデル306の節点力の求め方

 

 

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図3-15 JIS金属材料引張試験

 

 

 

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図3-16 モデル307

3-8-6 解析対象部分

対称性のある問題は、対象軸で切断した部分を対象にしてモデルを設定することができる。図3-15は金属材料のJIS引張試験方法の5号試験片であり、左右上下対称であるから図の斜線の部分を対象にしてモデルを設定できる。全体を対象にするより節点数を少ないモデルになり、全体を対象にしたモデルと同じ計算結果が得られる。

 

3-8-7 座標の設定方法

節点の変位と節点力はX方向とY方向の値として与えるので、節点力と変位が都合良く与えられるように座標を設定しなければならない。

図3-15の斜線の部分を解析対象にするには、左右および上下に切断した面に垂直な方向の変位を0、切断面に平行な方向の節点力を0で与える必要があり、必然的に図に示したように切断面と平行な方向のXY座標を設定し、切断面の変位と節点力は、次のように与える。

X軸に平行な切断面上の節点 : X方向節点力=0、Y方向変位 =0

Y軸に平行な切断面上の節点 : X方向変位 =0、Y方向節点力=0

図3-16は、図3-15の斜線の部分について、左端境界の節点のX方向の変位を0とし、右端の境界の節点にX方向の均一な変位を与えたモデル307で計算した節点力である

 

 

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図3-17 モデル307の要素内の応力度

 

3-8-8 曲線の境界

図3-17は、モデル307の境界が曲線の付近の形状と要素内の応力度の計算結果である。曲線の境界をもつモデルを作成するときは、要素を細かく設定するほど曲線の近似性が良いが、辺の中間にある節点の位置の取り方で、大きな要素でも曲線の近似性を良くできる。一般に、要素の辺の中間にある節点は、両端の節点からの距離が等しくなるように置くと、元の曲線を近似した形状になる場合が多い。

モデル入力デ-タとしては要素の頂点と辺の中間の節点の座標だけを与えているので、曲線部分に設定した要素の形状を知りたい場合は次のいずれかの方法で調べなければならない。

・3-3節の方法でモデル入力デ-タを図形表示する。

・3-6節の方法で境界上に位置を指定して計算し、計算結果のファイルSDからXY座標を調べる。

・3-7節の方法で境界の近傍に位置を指定して、要素内の値を計算し応力度を図形表示すると、境界の図形が表示される。

 

3-8-9 温度応力

図3-18は、図3-15に示した金属材料引張試験片が加工の過程で部分的に高温になり、黒い要素が100℃、そのまわりの灰色の要素が60℃、その他の要素が20℃で歪が無い状態から、温度が低下してすべての要素が20℃になった場合の残留歪と温度応力を計算するためのモデル308である。

なおこの問題は対称性がないので、厳密には図3-15の全体についてモデルを作成する必要がある。

モデル308の入力デ-タは、熱膨張係数を1.2×10ー5として、80℃と40℃だけ温度低下したときの自由収縮歪-0.00096と-0.00048を、3-2-1項の12)のC40の所に、黒い要素と斜線の要素の歪度として入れて作成する。図3-19は、この場合の残留応力の計算結果である。

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図3-18 モデル308

 

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図3-19 モデル308の黒い要素と斜線の要素の付近の主応力度

3-8-10 乾燥収縮応力

図3-20は、図2-25に示した鉄筋コンクリ-トの壁にタイルが張り付けられ、コンクリ-トが乾燥収縮した場合を計算するためのモデル309である。2次元境界要素法の図2-25と同じ問題である。乾燥収縮でコンクリ-トに-0.0005の歪度、目地モルタルに-0.001の歪度が生じ、タイルは乾燥収縮しないとして、3-2-1項の12)のC40の所に、これらの値を入れている。図3-21は、タイル端部の目地付近の要素に生じる主応力度の計算結果である。

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図3-20 タイル張付けのコンクリート壁

 

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図3-21 モデル309の目地モルタル付近の主応力度

3-8-11 適合要素と非適合要素

適合要素は、隣り合った要素の同じ位置の辺は、変形後に同じ位置になるという条件で計算する要素である。

非適合要素は、隣り合った要素の同じ位置の辺は、頂点すなわち辺の端は変形後も同じ位置になるが、それ以外の辺の中間の位置は同じ位置になる必要がないという条件で計算する要素である。

中点荷重の作用する梁について、図3-22のように要素を設定したモデル310~315で、適合要素と非適合要素を用いて計算すると表3-13のようになる。

また図3-23の先端荷重の作用する片持ち梁について、先端に荷重を与えたモデルと先端に変位を与えたモデルで、適合要素と非適合要素を用いて計算すると表3-14のようになる。

これらのように要素の数が極端に少ないと、適合要素のモデルは大きな誤差を含み、非適合要素の誤差はそれより小さい。しかし、要素分割が適当なモデルにすれば、適合要素と非適合要素の計算結果に大きな差

はみられない。

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図3-22 中点荷重の作用する梁のモデル310~315

適合要素は、隣合った要素が共有する辺が変形後に同じ位置になりずれを生じないので、パッチテストに合格し、適合条件も満たす。従って、通常の場合はモデル入力デ-タの表3-1のN16の数値は1にして、

適合要素を用いたモデルにする。  適合要素のモデルで計算したときの誤差が大きい場合に、表3-1のN16の数値を0にして、非適合要素による計算を使うようにする。

なお、本ソフトでは4変形8節点の要素を用いて、3-10-1項に説明するような高次の関数で変位を表しているので、上述のように適合要素でも計算結果に含まれる誤差は小さい。4辺形4節点の要素を持ちいた場合などは、変位を表すのに簡単な関数しか使えないので、適合要素を用いると誤差が大きくなることが多い。

 

表3-13 中点荷重の作用する梁の計算結果 ( )中は理論値

 

要素の種類              適合要素               非適合要素

モデル310 モデル311 モデル312    モデル313 モデル314 モデル315

右端下面たわみ(18.6)      6.33    17.13    18.37       11.70    18.06   18.44

支承部上向き反力(50)         いずれも 50.00             いずれも 50.00

右端水平方向反力(800)       いずれも800.0                いずれも800.0

のモーメント

 

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図3-23 先端荷重の作用する片持ち梁のモデル316~319

 

表3-14 先端荷重の作用する片持ち梁の計算結果( )中は理論値

 

要素の種類              適合要素           非適合要素

モデル316  モデル317     モデル318  モデル319

右端下面たわみ (0.1905)     0.1918       -          0.191 8     -

右端荷重          (100)      -        99.34          -        99.32

支承部上向き反力  (100)     100.00      99.34        100.00      99.32

左端水平方向反力(10000)      10000       9934         10000      9932

のモーメント

表3-13と表3-14の( )中の理論値は、F.Seewald および T.V.Karman, F.Seewald (S.P.Timoshenko,J.N.Goodier,Theory of Elasticity, 3rd Ed. Mcgraw-Hill, 1970,の訳本:弾性論,コロナ社、1973、120~125ペ-ジ)による。

 

3-8-12 積分点の数

要素上での面積分でガウスの数値積分を3×3点積分、4×4点積分、5×5点積分のいずれかを選んで計算できる。モデル入力デ-タは、表3-1のN15の値を3、4、5にすることにより作成できる。面積分の精度は3×3点積分で通常十分である。精度の向上を試みる場合に4点積分または5点積分を用いる。

 

3-8-13 節点番号と要素番号の付け方

連立方程式の係数マトリックスは、バンド幅が小さくなるように行の並び変えを計算中に自動的に行っている。したがって節点番号と要素番号の付け方は、計算速度に影響しない。また係数マトリックスのために必要なハ-ドディスクの容量に影響しない。

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