9章 モデル作成のガイドライン
以下の説明に出てくるモデルの入力デ-タはモデルの番号にMを付けたファイル名で、節点の変位と節点力の計算結果はモデルの番号にRMを付けたファイル名で、内部の変位と応力度を計算するための位置指定デ-タとその計算結果は、モデルの番号にD1MとSDMを付けたファイル名で、図形表示する要素番号を
指定するデ-タはモデルの番号にD2Mを付けた名前のファイルに収納している。
これらのファイルを使うことにより、計算を実際に行って説明の内容を確認し計算を再現できる。また、弾性解析が初めての方は、これらのモデルを修正して類似の問題を解くモデルを作成して計算を実行し、計算結果を検討することが理解を深める上で有効である。
9-1 曲面の近似性
図9-1は、円筒を輪切りにした中空円盤の1/4の部分を2つの要素に置き換えたモデル404である。図9-2は上面の形状であり、黒丸が節点である。節点の座標がモデル入力デ-タで与えられ、節点以外の部分の稜の形状は、プログラムに使われた関数(1-11節の文献に示す)から自動的に決まる。
曲線の部分の形状の近似性を調べるには、8章の要素内の変位と応力度の計算を使う。モデル404の計算結果(ファイルRM404に収納)をファイルR1に入れ、位置指定デ-タ(ファイルD1M404に収納)をファイルD1に入れて、8-4節の説明の通りに計算を実行すると、図9-1の要素①の稜AB上の座標がファイルSDに出力される。
図9-2の曲線の部分は、稜の中間にある節点が稜の中点に位置しており、円を精度よく近似している。
曲線の形状が円以外の放物線などの場合は、稜の中間にある節点の位置を稜の中点から少しずらすと、形状の近似性がよくなる。
図9-1 モデル404 図9-2 モデル404の上面の形状
9-2 不適当な要素の形状
図9-3は要素の2つの面が滑らかに繋がった要素である。図9-4は1つの面上にある節点が重なって、5面体の要素になったものである。図9-5は大きく凹んだ角のある要素である。このような図9-3~図9-5の要素は、数値計算上の誤差が出やすいので用いないようにする。
図9-3 面が滑らかに接合した不適当な形状の要素
図9-4 節点を重ねた不適当な 図9-5 大きく凹んだ角のある
形状の要素(数字は節点番号) 不適当な形状の要素
9-3 円柱のモデル
図9-6は、円柱を輪切りにしてその1/4の扇形の部分に要素を設定したモデル405である。図9-7のモデル406を4章のように自動作成し、節点のX座標とY座標を変更して図9-8のモデル407を作る。さらに図9-9のモデル408を作成して、モデル407とモデル408を合成して、モデル405の入力デ-タが作成できる。9-2節のように、円筒の中心(モデル408)の要素は面と面が滑らかに接合した形状にできないことに注意する。
図9-6 モデル405
図9-7 モデル406
図9-8 モデル407
図9-9 モデル408
9-4 モデルに与える節点の変位
モデルの節点の変位が分かっている場合は、モデル入力デ-タの節点の変位の値としてそのまま与える。この場合は、節点力が計算結果として求められる。
図9-10は均一な引張応力状態の問題である。Y軸方向の伸びが0.06であるから、Y=0の面上の節点のY方向変位を0とし、Y=60の面上の節点のY方向変位を0.06で与えたモデルで計算することができる。
変位を与えた節点の計算結果の節点力は、要素1個のモデル409のとき図9-11に、要素8個のモデル410のとき図9-12になる。
図9-10 均一引張応力の問題
図9-11 モデル409と計算結果の節点力
図9-12
節点の変位は、X、Y、Z方向で与えるので、変位がX、Y、Z軸に平行でない方向で与えられた場合は、X、Y、Z方向の変位に分解してモデル入力デ-タの値として与える。
図9-13は内面に均一の圧力が作用する円筒であり、図9-1に示したモデル404はこの問題を計算するモデルである。モデル404では図9-14のように、内面の円周にある節点に円周と垂直方向に太い矢印の0.0001の変位が生じる場合を対象とし、細い矢印のようにX方向とY方向の変位に分解してモデル入力デ-タに与えている。
9-5 モデルに与える節点力
実際には物体の表面に分布して作用する外力を、モデルでは節点に集中して作用している節点力に置き換えている。置き換えたときの節点力の値は、節点力の仕事量と要素内の弾性歪みエネルギ-が同じであるという条件で求めている。このため、実際に作用する外力とモデルの節点力の値は、合計は同じでもその分布はかなり違っている。
従って外力をモデルの節点力に置き換えるときは、注意が必要である。
1)等分布の外力
図9-10の均一引張の問題で、図9-15はY軸に垂直な断面が長方形の要素を設定したモデル411でありY=60の面上の節点に節点力を与えている。このように、長方形の面で頂点と稜の中点に節点が位置する要素の場合は、等分布荷重を置き換えた節点力の大きさは、図9-16のように頂点に-1、稜の中点に4の割合で等分布する外力と合計が同じ値になる。2つ以上の要素に属する節点は、それらの要素ごとにおける節点力の合計になる。
例えば、図9-10の均一引張の問題で、モデル409やモデル410と同じ要素分割で節点力を与えて解くには、図9-11と図9-12に示したような節点力を与えたモデル(これらのモデルはモデル412とモデル413とする)を設定する。
図9-15 モデル411
図9-16 等分布する外力の節点力への置き換え(要素の面が長方形のときの節点力の割合)
2)線上に等分布する外力
図9-17の中央荷重の作用する単純支持の梁の問題について、対称性から左半分について図9-18のように3つの要素のモデル414を
設定する。中央の荷重は問題ではABの線上に等分布しているが、モデルの節点力は図9-17に示すように稜の端で+1、稜の中点で+4の割合(合計300が50、200、50に分かれる)になる。
このような割合の節点力でABの線上に等分布している荷重の置き換えができることは、要素③の上面に位置を指定して要素内部の応力度を計算し、その結果が図9-19のようにX軸方向に等分布していることから確認できる。なお図9-19は、モデル414のY=16~19の位置の表面に垂直な応力度の計算結果である。誤差のない値0に比べて大きな誤差が出ている。このことについては、9-10節で説明する。
図9-17 中央荷重の単純支持の梁
図9-18 モデル414
図9-19 モデル414の計算結果の要素③の上面のZ方向垂直応力度(荷重と同じ方向の垂直応力度)
3)分布外力を置き換えた節点力の求め方
等分布の外力を長方形断面の要素の節点力に置き換える場合は、1)の説明のように簡単であるが、一般に外力の分布状態から節点力の値が直ちに求まることは少ない。9-4節で説明したように、変位が分かる場合は、節点に変位を与えたモデルで計算することにより、分布する外力を置き換えた節点力の値を求めることができる。
変位が分からない場合は、とりあえず近似すると思われる節点力または変位を与えたモデルを作成して節点の変位と節点力を計算し、その結果について外力が分布する表面の位置を指定して内部の変位と応力度を計算し、応力度が元の問題の外力の分布を近似するように、モデルを繰り返し作り直す方法による。
9-6 集中荷重と1点支持
荷重が1点に集中して作用する問題を計算するには、その点に節点を設定し荷重と同じ大きさの節点力を与えたモデルを作成する。
1点で支持された箇所のある問題を計算するには、その点に節点を設定し支持条件と同じ変位を与えたモデルを作成する。
近似性を良くするには、その節点の回りの要素を小さくすることが必要である。ただし計算結果はその節点の回りの要素に荷重が分布して作用している場合の近似値になる。
9-7 座標軸の設定
モデルに設定するXYZ座標軸の方向は、XYZ座標軸の方向で表される要素内の変位と応力度が分かりやすいように選ぶようにする。
また対称から切断した面は、面に垂直な方向の変位を節点に与えることになるので、XYZ座標軸のどれかと必ず垂直にしなければならない。
9-8 切断面の境界条件
対称性がある問題を切断してモデルを設定した場合に、切断面上にある節点に与える変位と節点力は次のようである。
切断面がX軸と垂直な場合 X方向変位0 Y方向節点力0 Z方向節点力0
切断面がY軸と垂直な場合 X方向節点力0 Y方向変位0 Z方向節点力0
切断面がZ軸と垂直な場合 X方向節点力0 Y方向節点力0 Z方向変位0
9-9 キレツ面
図9-17の中央荷重の梁で、中央荷重の位置の断面の下半分にキレツがある場合を例にする。図9-20と図9-21は、中央の黒く塗りつぶした面がキレツのモデル415とモデル416である。
図9-20は全体のモデル415であり、中央断面のBC上の白丸で表した節点は、同じ座標の節点がそれぞれ2つあり、一方が要素①と②に他方が要素③と④に属している。すなわち、要素①と③は、キレツ先端のB点の節点を除いて接合していない。なお、幅のあるキレツのときは、キレツの面上の節点の座標をキレツの幅に合うように設定する。
図9-21のモデル416は左半分のモデルであり、次のように中央断面上の節点に変位と節点力を与えることで、AB間は接合され、BC間はキレツになる。
AB上の節点 面に垂直なY方向の変位=0
面に平行なX方向およびZ方向の節点力=0
BC上のBを除く節点 X方向、Y方向、Z方向いずれも節点力=0
図9-20 モデル415
図9-21 モデル416
9-10 境界条件の近似
図9-18の中点荷重の作用する単純支持の梁のモデル414で、上面、下面、左端面の面上のX=3の位置を指定して応力度を計算すると(8章参照、位置指定デ-タはファイルD1M414に収納)図9-22になる。荷重の作用位置と支承位置(図9-18のABとEF)から離れた所は、元の問題では表面に外力が作用していないので、面に垂直な方向の垂直応力度と面に平行な方向のせん断応力度は0であるはずが、計算結果にはかなりの大きさの応力度すなわち誤差が生じている。これは、モデル414の要素の設定が粗いためである。
図9-23は図9-17の中点荷重の梁の問題について要素を細かく設定したモデル417である。上面、下面、左端面の面上のX=3の位置を指定して応力度を計算すると(8章参照、位置指定デ-タはファイルD1M417に収納)図9-24になる。
モデル414の図9-22に比べると、荷重の作用位置と支承位置(図9-18のABとEF)以外では、面に垂直な方向の垂直応力度と面に平行な方向のせん断応力度がほぼ0になっており、誤差が小さい。
問題に与えられた境界条件の近似性を向上するには、モデルの要素を細かく設定する。
図9-22 モデル414のX=3で表面の位置の応力度
図9-23 モデル417
図9-24 モデル417のX=3で表面の位置の応力度
9-11 要素の設定を細かくする方法
モデルの要素を細かく設定すると、次のような傾向がある。
境界条件の近似性が向上する。
モデル入力デ-タ作成に手間がかかる。
計算結果を検討するのが難しい。
パソコンに必要な容量が大きくなる。
計算時間が長くなる。
従って、できるだけ要素数が少なくて、精度のよい計算結果が得られることが望ましい。そのためには変位や応力度を求めたい箇所と、境界条件の近似性を良くする必要のある箇所は細かく要素を設定し、そうでない部分は要素を粗く設定する方法が有効である。
境界条件の近似性を良くする必要のある箇所は、計算結果の誤差に影響を与える箇所であり、それがどこかは10-10節に述べる。
モデルの一部分について要素を細かく設定するのに、図9-25のよな要素の設定方法が考えられるが、モデル作成で手作業の部分が多くなる。手作業の部分を少なくするには、図9-23のモデル417のよう
に4-5節の入力デ-タ自動作成が利用できるように、X、Y、Z軸のどれかに平行な形状で一部の要素を細かく設定するのが有効である。図9-26の左のモデルを自動作成し、その一部の節点のZ座標を修正すれば、右のモデルができる。さらに欠けた部分に入るモデルを自動作成して、両者を合成すれば図9-23のモデル417が作れる。
図9-25 特定箇所の細かい要素設定(手間がかかる)
図9-26 特定箇所の細かい要素設定(自動作成が使える)
9-12 温度応力と乾燥収縮応力
温度変化や乾燥収縮また湿潤膨張により生じる変形や応力は、拘束がなく自由に寸法変化したときの各々の要素の歪度を、表4-1のC52の数値に入れることにより計算できる。
図9-27は説明のために要素を2つにしたモデル418である。①の要素は温度変化がなく、②の要素が線膨張係数10-5の材質で10℃温度が上昇したとする。拘束なしで自由に膨張または収縮したときの歪度が0.0001であるから、温度が上昇した②の要素の表4-1のC52の値に0.0001を入れる。なお、温度が低下したり、乾燥で収縮した場合は負の歪度で入れる。材質は①と②の要素いずれもヤング
率2×105、ポアソン比0.2とし、境界条件は左端の面上の8個の節点の変位が0で、他の節点の節点力が0としている。
図9-28は、モデル418の計算結果の全体の変形を元の形と合わせて図形表示したものである。
図9-27 モデル418
図9-28 モデル418の計算結果の変形
9-13 数値積分点
要素内で体積積分を行うときに、ガウスの数値積分を用いている。モデル入力デ-タの表4-1のN14に入れた3、4、5のいずれかが、積分点の数を識別している。個々の要素内で、3のときは27点、4のときは64点、5のときは125点での値を計算し、それらに重みをかけて合計して積分値としている。
3、4、5による計算結果の精度の違いは一般に少ないので、モデル入力デ-タに設定するガウスの積分点の数は、通常3にする。要素の形状が複雑な場合などに4または5を試みる。また、数値積分の積分点数の影響を調べる場合に、4や5を使う。
9-14 計算時間
計算時間はモデルの節点数が多いほど長くなる。パソコンの種類により異なるが、一般に節点数が多くても数秒~数十秒である。
モデルの節点の番号の付け方は、計算時間に影響しない。スカイライン法で連立方程式を解くときに、係数マトリックスのバンド幅が最小になるように節点の順番の並び換えを自動的に行っているからである。
9-15 計算できないモデル
1)剛体変位を生じるモデル
回転または平行移動を生じるような節点の変位を与えたモデルは、計算できない。これは、計算過程で使う連立方程式が特異になり解が求まらないからである。
ただし、有効数字の誤差のために大きな剛体変位を含んだ計算結果が出る場合がある。
2)釣り合い条件を満足できないモデル
モデルの節点に変位を与えた所にどのような節点力を入れても、モデルに与えた節点力と釣り合わないようなモデルは、計算結果が出た場合でもその計算結果は意味がない。
3)節点数が限度を越えたモデル
節点数が多いと、連立方程式を解くときに必要な容量が多くなり、ハ-ドディスクの容量を越えると計算できない。
節点数が 1000 2000 4000 6000 8000 のいずれかを限度とする実行用ファイル F3D1000.EXE ~ F3D8000.EXE があり、数の大きい実行用ファイルほどパソコンに大きな容量が必要である。サンプルはF3D1000.EXEを提供している。
モデルの節点数が収まるものから数の一番小さい実行用ファイルを選んで計算してもパソコンの容量が不足する場合は、10-9節に説明する方法に従って計算する。ただし、10-9節に説明する方法は、数値の有効数字が単精度で小さく、計算結果に含まれる誤差が大きくなる場合があることに注意しなければならない。
それでも計算できない場合は、節点数を減らしたモデルにするか、またはハ-ドディスクの容量の大きいパソコンを用いなければならない。 なお、パソコン上で他のソフトを同時に動かしている場合は、使える容量が小さくなるので、他のソフトを中止して本ソフトだけを動かすようにして計算することが必要である。