Hirai Takayuki

10章 解説と演習

10章 解説と演習

 

10-1 理論解の得られる問題

図9-10の均一引張応力の問題、また図10-1の純曲げ応力の問題の計算結果は、モデルの要素分割にかかわらず理論解に一致する。これは変位が線形または2次の分布をしており、要素の変位を表すのに使われた関数(1-11節の参考文献に示す)により、変位を正確に計算できるからである。残念ながら、実際の問題の変位の分布は簡単でなく、計算結果に誤差を生じる。

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図10-1 純曲げ応力の問題

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図10-2 純曲げ応力の問題のモデルの節点力

10-2 純曲げの問題

図10-1の純曲げの問題で、要素1つで節点に変位を与えたモデル419、要素1つで節点に節点力を与えたモデル420、要素8つで節点に変位を与えたモデル421、要素8つで節点に節点力を与えたモデル422の場合は、モデルに与える節点また計算結果の節点力は図10-2になる。これらのモデルにおいて、要素内の変位と応力度の計算結果は、どの位置を指定しても理論値に一致する。

 

10-3 中央荷重の梁

図10-3は、スパンの中央に荷重の作用する梁のモデルである。モデル423は全体の領域について、モデル424は対称性から左半分の

領域について要素を設定している。両者の計算結果は同じになる。9章のモデル414とモデル417と合わせて、中央載荷位置下面のたわみとY方向垂直応力度の計算結果を示すと表10-1になる。2次元平面

 

表10-1 中点荷重の作用する梁の計算結果

 

  モデル414 モデル417 モデル423 モデル424
中央載荷位置の

下面のたわみ

側面部 1804/E 1916/E 1873/E 1873/E
中心部 1778/E 1890/E 1829/E 1829/E
央載荷位置の下面

のY方向垂直応力度

側面部 71.0 71.0 70.1 70.1
中央部 72.3 72.0 71.3 71.3

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図10-3 中点荷重の作用する梁

応力状態を仮定した場合の理論値(F.Seewald および T.V.Karman, F.Seewald による。S.P.Timoshenko,J.N.Goodier,Theory of Elasticity, 3rd Ed. Mcgraw-Hill, 1970,の訳本 弾性論,コロナ社,1973、120~125ペ-ジ)は、ヤング率をEとして中央載荷位置下面のたわみが1860/E、Y方向垂直応力度が71.7である。モデル414は要素の設定が粗いので誤差が大きいが、他のモデルは近似性がよい。なお、3次元での誤差のない値(理論値)はまだ与えられていない。

 

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図10-4 部分圧縮を受ける円柱                   図10-5 モデル425

 

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図10-6 モデル425の計算結果

 

10-4 部分圧縮荷重を受ける円柱

図10-4に示す上下面の同心円の部分を圧縮された円柱の問題について、対称性から1/8の部分に図10-5のモデル425を設定する。

図10-5の斜線を入れた箇所の要素は、面が滑らかに接合された形状

でなく、ABとBCは直線でBの箇所は角があり滑らかでない。ABCを円弧にすると、面が滑らかに接合した形状の要素になり、9-2節で説明したように不適当である。

図10-6は応力度と変位の計算結果を解析値(斉藤秀雄、短円柱および円盤の軸対称変形、日本機械学会論文集、18,68,1952)と比較したものである。上面の荷重が作用している所の応力度(図10-6のZ=40で中心からの距離が0の値)以外は、解析値と近似している。なお同じ位置の応力度の計算結果が2つ示されているが、これらは隣り合った要素の接合面上の位置であり、両方の要素での計算結果を示したものである。

なお載荷面の節点に与えた節点力は、載荷面に等分布荷重が作用した場合を置き換えたものである。

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図10-7 モデル414の要素間の応力度の違い

 

10-5 要素内の応力度

1つの要素内で、応力度は連続した値で分布するが、隣り合った要素間で応力度は連続していない。図10-7は、図9-18のモデル414について、①②③の3つの要素の接合面の位置で、隣り合った要素の応力度の計算結果を示したものである。近似しているものも多いが、いずれも差があり、①と②の接合面上など大きな差がある。これらは各々の要素ごとに変位を簡単な関数で近似し、その偏導関数として応力を求めているため出た誤差であり、数値計算上必然的に発生するものである。

誤差を小さくするには、要素を細かく設定したモデルにする。

図10-6に示したモデル425の応力度は、隣り合った要素の内部の位置での計算結果を両方示しており、解析値は両方の中間の値になっている。このように、隣り合った要素の接合面上の位置における応力度は、一般にそれぞれの要素の計算結果の中間の値になる。

 

10-6 要素内の変位

要素の接合面で、隣り合った要素の計算結果の変位は同じである。従って、計算結果の変形した形状は連続したものになる。

 

10-7 節点力と実際に作用する外力

節点力は、外力を数値計算のために節点に集中して作用する力に置き換えたものである。計算結果の節点力は外力を表しているわけではないので、外力として検討する場合は、計算結果の節点力のままではなく、9-5節で説明したように節点力と外力を互いに置き換える必要がある。

置き換えは、外力の作用する箇所の要素の表面に位置を指定して、8章の方法で応力度を計算し、それから表面に作用する応力を求める方法による。図9-22や図9-24がその例である。

問題に与えられた外力が図9-17のとき、荷重の作用位置と支承位置から離れた所は外力が作用していないが、計算結果の図9-22や図9-24は、ある程度の表面力が生じている。また荷重の作用位置と支承位置の付近は、かなり広い部分に分布して荷重と支持反力に相当する応力度が出ている。これらは、誤差である。

誤差を小さくするには、要素を細かく設定したモデルにする。

10-8 温度応力と乾燥収縮応力

図10-8は、カ-テンウォ-ルに使われるPCパネル(プレキャスト鉄筋コンクリ-ト製パネル)であり、鉄骨骨組に下部の2つの出っ張り(ファスナ-)を載せ、転倒しないように上部を止めて建物の外壁を構成する。ファスナ-のある側が内壁面になり、ファスナ-のない側が外壁面になる。

パネルの幅方向に左右対称であるから半分に切断し、図10-9のような要素分割のモデルを設定する。切断面上の節点はY方向の変位を0で与える。またX方向の支承をパネル内面の上部に丸で示した2ヶ所と、ファスナ-の内側面の中点とし、これらの位置の節点はX方向の

変位を0で与える。Z方向の支承をファスナ-の下部面の中点とし、この位置の節点はZ方向の変位を0で与える。

PCパネルの外壁面が化粧仕上げをされて水分の蒸発が少ないので外側の要素に-0.00005の歪度の乾燥収縮が起こり、内壁面は乾燥

が顕著なため内側の要素に歪度-0.0003の乾燥収縮が起きた場合

 

 

 

 

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図10-8 PCパネル                  図10-9 モデル426と427

 

をモデル426とする。また、乾燥収縮がないとして、外壁面が日射を

受けて温度が25℃上昇して線膨張係数が10-5の外側の要素に10-5×25=

0.00025の歪度の膨張が生じた場合をモデル427とする。

モデル426とモデル427は、どちらも内側の要素の歪度より外側の要素の歪度が+0.00025だけ大きいわけで、要素内に発生する

応力度は同じになり、変形も基本的に同じでモデル427の方がモデル

426より全体が均一に歪み度+0.0003だけ膨張していることになる。Y軸の負の方向に見たときの変形を図10-10に示す。線が太いのは、要素が重なっているからである。2つのモデルの要素内の応力

 

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図10-10 モデル426と427の変形

度は、有効数字上の差は出るが、同じ計算結果になる。パネル中央部分

の4個の要素について計算した要素内の変位と応力度を、ディスク97

71のファイルSDM426とSDM427に入れている。なお、位置指定デ-タはディスク9771のファイルD1M426に入れている。

図10-11は、上面に合計1444kgf( PCパネルの自重に相当)の等分布荷重に相当する節点力を鉛直に作用させたモデル428である。PCパネルの要素設定と支承条件は、図10-9のモデル426と同じである。図10-12は計算結果の支承位置の節点の節点力と、対称性から切断した面上にある節点の面に垂直な方向の節点力である。 なお自重が作用した場合のモデルは、モデルの内部に位置する節点に自重を分散して節点力として与えることもできる。

 

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図10-11 モデル428                     図10-12 モデル428の節点力

 

10-9 単精度による計算

モデル入力デ-タから節点の変位と節点力を計算するには、6章で説明したように F3D1000.EXE ~ F3D8000.EXE のファイルを用いるが、これらのファイルは、有効数字を倍精度としている。有効数字を単精度にすると、数字の有効な桁数が小さくなるので、同じモデルを容量の小さいパソコンを使って計算することができる。ただし、有効数字の桁数に起因して計算結果に含まれる誤差が大きくなる。

単精度による計算は、ディスク9771に入れている F3V1000.EXE~F3V8000.EXE のファイルを用いて、それぞれ F3D1000.EXE ~ F3D8000.EXE のファイルと同じ方法で行う。

倍精度による計算       単精度による計算

F3D1000.EXE  ←→  F3V1000.EXE

F3D2000.EXE  ←→  F3V2000.EXE

F3D4000.EXE  ←→  F3V4000.EXE

F3D6000.EXE  ←→  F3V6000.EXE

F3D8000.EXE  ←→  F3V8000.EXE

その他の入力デ-タの作成や図形処理などのファイルの使用方法は、同じである。

10-10 単精度計算で誤差の出やすい問題

図10-13は、先端に荷重の作用する片持ち梁である。左端の面上の節点のY方向変位を0とし、A点の節点のZ方向変位を0とし、B点のZ方向節点力を-100とし、A、B、C点のX方向変位を0とした境界条件を与え、高さHに対して長さLを変えて種々の要素分割のモデルを設定する。

単精度計算の F3V1000.EXE~F3V8000.EXE のファイルで計算した結果のA点のZ方向節点力は、図10-14のRの値になる。A点のZ方向節点力は100が誤差のない値であるが、図10-14のように誤差が含まれる。誤差は、L=5Hまでは小さいが、L=10Hになると少し大きくなり、L=20Hになるとかなり大きくなる。またこの誤差は、要素分割を細かくするほど大きくなる傾向がある。

このように細長い形状で、長さ方向に垂直にせん断荷重が作用する問題は、単精度の F3V1000.EXE~F3V8000.EXE のファイルで計算すると、誤差が大きくなることに注意しなければならない。先に示したモデル401~428のような問題は、この条件に当てはまらず、モデルの設定を適切に行えば、単精度の F3V1000.EXE~F3V8000.EXE のファイルでも誤差の小さい計算結果を得ることができる。

なお、図10-14のモデルを倍精度の F3D1000.EXE~F3D8000.EXE のファイルで計算すると、図10-14のRの値に示したZ方向節点力は、100.0になり誤差が極めて小さい。

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図10-13 先端荷重の作用する片持ち梁

 

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図10-14 先端荷重の片持ち梁の反力Rの単精度による計算結果

10-11 C言語による計算

モデル入力デ-タから節点の変位と節点力を計算するには、6章で説明したように F3D1000.EXE ~ F3D8000.EXE のファイルを用いるが、これらのファイルは FORTRAN で作成されている。同じ計算をC言語です るように作成したファイル F3C1000.EXE, F3C2000.EXE をディスク9771に入れている。

これらのC言語によるファイルは、 F3D1000.EXE, F3D2000.EXE と同じ方法で使うことができる。

C言語によるファイル F3C1000.EXE, F3C2000.EXE で計算すると、節点の変位と節点力は F3D1000.EXE~F3D8000.EXE で計算したものと同一になる。ただし、要素の体積と最後の計算過程の状態を表すデ-タが計算結果に出ない。また、計算結果のX、Y、Z方向の節点力の合計が、フォルダのファイル R2.RST に書き込まれる。

なお、FORTRAN と C では計算速度とパソコンに必要な容量が少し異なる。

 

10-12 計算結果の意味

20節点の6面体アイソパラメトリック要素を用い、要素ごとの形状と変位は、その要素の20個の節点の座標と変位から次のような関数で近似している。

モデルの節点の変位と節点力は、節点力がなす仕事量が要素の歪みエネルギ-に等しいという条件で求めている。

従って、要素ごとに変位を簡単な関数で近似することが原因で、計算結果には誤差が発生し、また変位の偏導関数として計算する応力度にも誤差が生じる。

 

10-13 計算結果の妥当性

計算結果は作成したモデルに関して妥当でなければならない。妥当とは、次の節点力の釣り合いが数値計算上で許される誤差の範囲内で成り立つことである。

節点力の釣り合い

X、Y、Z方向の合計が0

X、Y、Z軸に関するモ-メントが0

節点力の釣り合いの数値計算上で許される誤差の範囲は、10-9節で説明した単精度による計算の場合は数%程度になることがあるが、通常の場合は極めて小さい。

なお、モデル入力デ-タで節点力を与えた場合に、計算結果の節点力が与えられた節点力と若干違うことがあるが、その違いは有効数字の桁数に起因する誤差であり、10-9節の単精度計算ではこの誤差がやや大きくなる。

 

10-14 計算結果の誤差の検討

一般に理論解は分らないので、計算結果に含まれる誤差を厳密に調べることは困難である。しかし、節点力の釣り合いと境界条件の近似性から計算結果に含まれる誤差を次のように検討することができる。

1)計算結果の節点力の釣り合いに含まれる誤差を調べる。

X、Y、Z方向の合計の0からのずれ

X、Y、Z軸に関するモ-メントの0からのずれ

2)要素内で計算した変位または応力度の分布と、問題に与えられた変  位または荷重の分布との差を調べる。ただし、変位や応力を計算し  ようとしている箇所から離れた部分は除く。

2)の例は、9-10節で説明した境界条件の近似性である。

なお、2)で変位や応力を計算しようとしている箇所から離れた部分を除くことができるのは、次の理由による。

サンブナンの定理より、同じ材質形状の領域に作用する合計とモ-メントが同じで分布状態の異なる外力は、分布する区域の大きさと同じ距離以上離れた所の変位と応力に与える差が小さい。

このため、ある位置の計算結果の誤差を調べる場合は、その位置から離れた所に作用する外力の影響を、サンブナンの定理を参考にして判断できる。例えば図9-22や図9-24で左の支承反力はある領域に分布しているが、合計とモ-メントが問題における誤差のない反力(上向きに100)と同じであり、その分布する領域の大きさより離れている中央の荷重が作用する付近は、支承反力による影響が小さい。

 

10-15 プログラム言語

本ソフトは FORTRAN、BASIC、C の言語で書かれたものを、実行用フ ァイルに翻訳したものである。

FORTRAN : F3D1000.EXE ~ F3D8000.EXE

F3DCR.EXE, F3DSY.EXE, F3DSD.EXE

F3V1000.EXE ~ F3V8000.EXE

BASIC     F3DCH.EXE, F3DR1.EXE

C         F3C1000.EXE, F3C2000.EXE

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