Hirai Takayuki

6)石こうに関する研究

6)石こうに関する研究

6-1 研究の背景

a 研究の必要性

日本の産業が発展し、1960年ごろから原油を大量に輸入するようになり、原油に含まれる硫黄が産業廃棄物となり、その多くは亜硫酸ガスになって大気汚染を引き起こした。このため、硫黄をカルシュウムと反応させて硫酸カルシュウム(石こう)として回収する方法が使われるようになり、大量に出てくる石こう(排煙脱硫石こうと言われた)の使い方の技術開発が求められた。有望な用途として建築材料があり、大学院で指導を受けていた岸谷孝一氏のもとに依頼があり、研究がスタートした。

b 石こうとは

石こうには、二水石こう(CaSO2H20 硫酸カルシュウムに2つの結合水がついたもの)、半水石こう(CaSO1/2H20、α型とβ型がある)、無水石こう(CaSO4、Ⅰ型とⅡ型とⅢ型がある)。があり、日頃目にする石こうは二水石こうである。

一般に、二水石こうを煆焼(結合水の吸熱反応がなくなるまで焼くこと)して、β型半水石こう(焼き石こうともいう)として製造される。煆焼後に熟成したα型半水石こうと、高温で焼成したⅡ型無水石こうも製造されている。Ⅰ型とⅢ型の無水石こうは、通常の気中で安定していない。

c 石こうの利用

半水石こうや無水石こうを水と混練して、水和反応させて二水石こうにして硬化させて利用する。

CaSO1/2H0 + 3/2H0 → CaSO2H

CaSO4          + 2H0  → CaSO2H

β型半水石こうは安価に製造できるが硬化後の強度が低い。α型半水石こうは硬化後の強度が高いが、水和反応が急速に終了しその時間の調整が難しい。Ⅱ型無水石こうは、水和反応が速やかに起きるように焼成するのが難しいが、水和硬化の時間を調節することが可能で、硬化後に高強度にできる。

硬化した石こうは、白色で美観が良い、平滑な平面が得られる、ひび割れが生じない、中性でカビが発生せず衛生的、成形性が良くて寸法変化が少ないなど長所があり、石こうボードや左官仕上げのプラスターとして建築に使われていた。絵画のデッサンで描く対象の白い彫像は、石こうで作られている。

 d 水硬性と気硬性

半水石こうと無水石こうは水と反応して硬化するが、水和反応は速やかに完了し硬化した二水石こうは水に濡れると徐々に溶ける。このため、石こうは水硬性であるとは言い難い。石こうは水和反応で硬化すると言うのが適当であろう。

石灰石と粘土を焼成して製造するセメントは、水と練ると水和して結晶になって硬化し、その水和反応は長期間続き、硬化したものは水に溶けない。セメントは水硬性である。

生石灰は水と練って固めると、空気中の炭酸ガスを取り入れて化合し消石灰になって強度が増す。これは気硬性と言われる。硬化した石こうが乾燥すると強度が増すので、石こうは気硬性と言えるかというと、空気中の水蒸気を吸収して強度が低下する場合もあるので、気硬性と言うのは難しい。

 

6-2 建築材料としての石こうの性質に関する研究

石こうの基本的な性質、強度や弾性など力学的性質、耐久性など、建築材料に用いるときに必要な性能を試験により調べた。研究成果に詳細なデータを示しているが、次のようなことが注目される。

強度や弾性係数は、コンクリートに近い値になるように、硬化させることができる。

石こうの水和による硬化は、温度が低いほど良好であり、水和後は水分が少ないほど良い組織を保つ。これはセメントと逆の性質である。

水和硬化した石こうは、水分を吸収すると強度が低下し、水に濡れると徐々に溶ける。

水と練った石こうが水和して硬化するときの寸法の変化は小さく、硬化した後の乾燥や吸湿による寸法の変化は極めて小さい。

骨材を入れたコンクリートとして、また補強筋で補強して使うことが可能である。

コンクリートと違い、中性であり鉄筋の発錆を防止する性質はない。

100℃を超えたあたりから吸熱反応を起こして結晶水を放失しさらに気化熱を奪ので、火災熱による初期の温度上昇を抑える働きがある。

研究成果

219 石膏の短時間応力歪応答      昭和49年    日本建築学会大会学術講演梗概集

10月        (著者 岸谷孝一、平居孝之)

221 高強度石膏に関する          昭和49年    日本建築学会関東支部研究報告集

実験研究(その1付着)            11月        (著者 岸谷孝一、平居孝之)

220 高強度石膏に関する          昭和49年    日本建築学会関東支部研究報告集

実験研究(その2水に対            11月        (著者 岸谷孝一、平居孝之)

する応答)

217 高強度石膏に関する          昭和49年    日本建築学会関東支部研究報告集

実験研究(その3粒子強化)        11月        (著者 岸谷孝一、平居孝之)

する応答)

301  建築における資源の        昭和51年    大分工業大学紀要

有効利用に関する研究(        7月          第5巻第1号

その1建築における資源                     P1118-124 著者 平居孝之

問題する試験研究)

302  建築における資源の        昭和51年    大分工業大学紀要

有効利用に関する研究(        7月          第5巻第1号

その2高強度石こうに関                     P125-132 著者 平居孝之

する試験研究)

211 建築材料としての無        昭和52年    日本建築学会論文報告集

機複合材料に関する研究            4月          No.254

(その1マトリックス相                          (著者 岸谷孝一、平居孝之)

として見た石こうの性質                          pp21-26

:基礎的な物性)

210 建築材料としての無          昭和52年    日本建築学会論文報告集

機複合材料に関する研究            5月          No.255

(その2マトリックス相                          (著者 岸谷孝一、平居孝之)

として見た石こうの性質                          pp1-7

:環境条件に対する応答)

209 建築材料としての無          昭和52年    日本建築学会論文報告集

機複合材料に関する研究            6月          No.256

(その3マトリックス相                          (著者 岸谷孝一、平居孝之)

として見た石こうの性質                          pp1-6

:力学的性質)

@@ 構造用せっこうの          昭和59年    せっこう構造分科会共通試験報告

圧縮強さ試験                4月         (日本建築学会東海支部

石こう構造分科会) 著者 平居孝之

177  総説 建築構造への      昭和59年    GYPSUM &

セッコウ利用の試み           9月        LIME No.192

-現状と今後の課題-                       特集号、セッコウの建築材料への利用

P3-7 著者 平居孝之

 

6-3 石こうを使った建築材料の開発研究

研究は、焼成技術を開発した企業(小野田セメント、現在の太平洋セメント)から石こうを提供していただいたことで、進めることができた。

石こうは、単体での利用方法が限られるので、他の材料と組み合わせて使う方法の開発を試みた。石こうは他の材料と組み合わせたとき、両者は反応せずに石こうの組成のままであるので、開発した材料を複合材料と表現した。複合材料とは、異なる材料を組み合わせて、それぞれの組成を変えることなく結合や接合をした、元の材料だけでは得られない性能をもつ材料のことである。

開発研究において、次のようなことが印象に残っている。

〇木質材料は燃焼で熱源になり、鉄骨は温度上昇で強度低下するが、石こうは火災発生時に熱吸するので、石こうを使った建築物は防火性能が高いと期待された。南極昭和基地の居住施設は火災に対する安全性が高度に要求されるので、石こうコンクリートを腐食しない補強金で補強した構造は、優れた方法であると期待した。また、石こうは南極の低い気温でもセメントのように硬化不良を起こすことがない。

〇Ⅱ型無水石こうは、水と混練して長時間置いても流動性を保ち、型枠に打設する直前に凝結促進剤を添加させて硬化させて使うことができる。これは、生コンクリートが夏季に搬送や打設作業において、難しい施工管理が必要であるのと違う。

〇水と練った石こうを他の材料に密着させたとき、金属やプラスチックなど吸水性がなく表面が滑らかな相手との接着は極めて弱い。石こうと水の混練物が相手にしみ込んで石こうが硬化すると、接着強度が出る。これはアンカー効果(投錨効果ともいう)である。接合性を高めるには、表面に凹凸(異形鉄筋の表面が例)を付けるか、接着剤を利用することになる。

○石こうを連続ガラス繊維で補強するにおいて、ガラス繊維を酢酸ビニル樹脂(木工用ボンド)で固めたロッドにして型枠に配向し、それに石こうを流し込んで固めて、合板のような高強度を持つ板材を作ることができた。一旦硬化した酢酸ビニル樹脂が、石こうと水の混練物から吸水軟化して接着力を持つので、樹脂が固まった状態で使えることになり、きわめてハンドリングがよくて成形性に優れていた。特許を申請したが、類似の発想があるとのことで、成立しなかった。

なお、この高強度の板材は、濡れると強度が低下するという問題がある。また、アルカリ性で水分が存在するモルタルやコンクリートの中で、酢酸ビニル樹脂にこのような働きは期待できない。

〇石こうそのものの耐水性を向上する方法は、全くなかった。例えば、バリュウムイオンを混練時に入れると耐水性が向上するという外国の既発表論文があり、詳細に追試験を行ったが効果は見られなかった。

○石こうの成形性の良さを生かして、小型ヨットの厚さ約1cmのモノコックのボディーを作り、これにガラスクロスを被せて合成樹脂で接着して補強した。海や川でセーリングを長期間行って問題はなかった。合成樹脂被覆により石こうが水に触れないようにする方法が、石こうの耐水性を保つ唯一の方法と思った。

研究成果

225 セッコウをマトリッ        昭和47年    日本建築学会大会学術講演梗概集

クスとした複合材料に関            10月        (著者 岸谷孝一、平居孝之)

する実験的研究

223 セッコウ-鋼板によ          昭和48年    日本建築学会関東支部研究報告集

るプレキャスト板の曲げ            3月          (著者 岸谷孝一、平居孝之)

試験

318 水硬性セメント類を     昭和49年   日本科学技術連盟複合材料

マトリックスとする複合     3月      研究会、第5年度 著者 平居孝之

材料に関する実験研究                           p1-12

255  高強度石膏を用いた       昭和49年     建築文化 材料工法セミナ-

構造                      9月       著者 平居孝之

@@ 高強度石膏に関する       昭和50年    日本建築学会関東支部研究報告集

実験研究(その3粒子強化)    7月         (著者 岸谷孝一、平居孝之)

216 高強度石膏に関する        昭和50年    日本建築学会関東支部研究報告集

実験研究(その4石膏セ       7月         (著者 岸谷孝一、平居孝之)

メントコンポジット)

215 石膏セメントコンポ       昭和50年    日本建築学会大会学術講演梗概集

ジット                     10月        (著者 岸谷孝一、平居孝之)

212 建築材料としての無      昭和50年  学位論文(東京大学)

機複合材料に関する研究      12月    pp1-580 著者 平居孝之

(石こうコンポジットを中心として)

301 前出

213 プレパクト石膏コン         昭和52年    日本建築学会九州支部研究報告集

クリ-ト                      2月         (著者 岸谷孝一、平居孝之)

208 建築材料としての無      昭和52年   日本建築学会論文報告集

機複合材料に関する研究      7月       No.257 pp1-7

(その4粒子強化)                (著者 岸谷孝一、平居孝之)

304 建築における資源の         昭和53年    大分工業大学紀要

有効利用に関する研究(       2月          第6巻第1号 著者 平居孝之

その3石膏コンクリ-ト)                  P85-96

305 建築における資源の       昭和53年    大分工業大学紀要

有効利用に関する研究(        2月         第6巻第1号

その4石膏ヨットの試作)                   P97-103 著者 平居孝之

195 前出

194 前出

@@  石こうの建築への利     昭和58年    構造用石こうコンクリ-トの物性と利用に

用の試み                  10月   関する研究連絡講演梗概集(日本建築学会

東 海支部石こう構造分科会)

(著者 岸谷孝一、平居孝之)

@@ せっこう構造分科会   昭和60年    日本建築学会東海支部石こう構造

共通試験報告その2せっ   3月          石こう構造分科会

こうコンクリ-ト                            (著者 大岸佐吉、岡島達雄、

小阪義夫、平居孝之、ほか13名)

149 南極昭和基地にお        昭和62年    日本建築学会構造系論文報告集

ける防火建物建設のた    7月      No.377

めの石膏コンクリート                       (著者 平山善吉、平居孝之)

の利用に関する基礎的研究                       pp41-51

144 石膏セメントコン        昭和62年     日本建築学会構造系論文報告集

ポジットを超速硬性の    10月      No.380

結合材に使うための凝                        (著者 平居孝之、岸谷孝一、村上聖、

結調節剤に関する研究                        平山善吉)  pp1-9

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