5)GRCに関する研究
5-1 研究の背景
ガラス繊維の強度と弾性係数は、炭素繊維より小さいが合成有機繊維より大きく、質量当たりの強度は鋼材よりはるかに高い。価格も比較的安いので、セメントコンクリートの補強繊維として利用が試みられていた。セメントコンクリート中にはアルカリがあるので、通常のガラスは溶けるので耐久性がない。ジルコニアをガラスに入れると耐アルカリ性が向上するので、外国でジルコニアを入れた繊維が製造されていた。しかし製造技術の制限からジルコニアの含有量が低く耐アルカリ性が十分でなかった。(株)日本電気硝子が耐アルカリ性に優れるジルコニアを多量に含有する耐アルカリガラス繊維の製造技術を開発したことで、耐アルカリガラス繊維補強セメント(GRCという)の利用が始まった。
GRCを扱う企業が集まってGRC工業会を設立し、関係機関が加わって、GRCの利用技術の研究を行った。そこで多くの研究に参加した。研究の中心を担ったものもあれば、補助的な役割をしたものもある。
5-2 GRCの性質に関する試験研究
GRCの性質を試験により明らかにして、性能のデータベースとして公表する研究に参加した。
研究成果
@@ GRCの凍結融解 昭和56年 建築研究振興協会、GRC
抵抗性および透水性に 11月 研究委員会報告(第3報)
関する試験 (著者 岸谷孝一、平居孝之、
ほか12名)
@@ GRCの圧縮強度 昭和56年 建築研究振興協会、GRC および耐衝撃性に関す 11月 研究委員会報告(第4報)
る試験 (著者 岸谷孝一、平居孝之、
ほか12名)
@@ GRCの乾湿繰り 昭和58年 建築研究振興協会、GRC 返しによる長さ変化に 3月 研究委員会報告(第5報)
関する試験 (著者 岸谷孝一、平居孝之、
ほか12名)
@@ GRCの乾燥による 昭和58年 建築研究振興協会、GRC
長さ変化に関する研究 3月 研究委員会報告(第6報)
(著者 岸谷孝一、平居孝之、
ほか12名)
@@ GRCの曲げクリ- 昭和59年 繊維補強コンクリ-トに関
プに関する研究 2月 するシンポジウム論文集
(著者 平居孝之、友沢史紀、三島
清敬、田原正夫)、pp81-84
@@ GRCの耐摩耗性 昭和59年 建築研究振興協会、GRC
に関する研究 3月 研究委員会報告(第7報)
(著者 岸谷孝一、平居孝之、
ほか12名)
@@ GRCの熱伝導率 昭和59年 建築研究振興協会、GRC
に関する試験 3月 研究委員会報告(第8報)
(著者 岸谷孝一、平居孝之、
ほか12名)
@@ GRCの曲げクリ 昭和59年 建築研究振興協会、GRC -プに関する試験 3月 研究委員会報告(第9報)
(著者 岸谷孝一、平居孝之、
ほか12名)
@@ GRCのガラス繊 昭和59年 建築研究振興協会、GRC
維含有率試験方法に関 3月 研究委員会報告(第10報)
する研究 (著者 岸谷孝一、平居孝之、
ほか12名)
@@ GRCの引張試験 昭和60年 建築研究振興協会、GRC
方法に関する研究 3月 研究委員会報告(第11報)
(著者 岸谷孝一、平居孝之、
ほか12名)
@@ GRCの耐久性に 昭和60年 建築研究振興協会、GRC
関する研究 3月 研究委員会報告(第12報)
(著者 岸谷孝一、平居孝之、
ほか12名)
162 GRCの引張試験 昭和60年 日本建築学会大会学術講演梗概集
10月 A(著者 平居孝之、友沢史紀、
渡辺邦孝、毛利隆) P23
@@ GRCの物性と試験方法 昭和62年 GRC工業会
10月 引張挙動pp49-55, せん断 試験方法pp77-80、クリ- プpp83-93、引張試験方法 pp179-185を担当、
5―3 GRCの引張試験方法に関する研究
GRCは、マトリックスであるセメント水和物に分散された耐アルカリガラス繊維が引張応力を負担するので高い引張強度を有する。またセメント水和物が局部的に引張破断してもそこを横切るように位置する耐アルカリガラス繊維が、セメント水和物の部分をつなぎ止めるので、全体としては破断せず、かつ高い引張応力を負担しながら伸びる。このため、補強されていないセメントマトリクスが全く伸びずに破断するのに比べると、靱性が著しく向上する。伸びは、金属などの延性に比べると小さいので、鋼材のような強靱な性能ではないが、セメントを使った一般の材料が脆性であるのに比べるとはるかに優れている。
GRCの伸びる性質を調べることができるように、GRCの引張試験方法の開発研究を行った。コンクリートの割裂引張試験のような方法でなく、試験体を直接引っ張り、等断面の十分な長さの部分の伸びを計測できて、その区間で破断する試験方法が理想的であった。研究成果に示すように、この要求を満たす引張試験方法を開発した。
この引張試験方法において、GRC試験体は一定の矩形断面の長い板であり、それを偏心しないようにモーメントが作用しないように両端部に引張変位を与えると、中央付近で破断する。なぜ中間付近で破断するかを理論的に裏付けようと試みたが、までできていない。 同一断面の試験体を引っ張ると、破断する位置は中央付近とは限らないという意見が多いが、私は延性材料のときは中央付近で破断するのではないかと考えている。これを読んだ誰かが、それを理論的に裏付けてくれることを期待しています。
研究成果
307 Testing Method for 昭和58年 Transactions of The Japan Concrete Tensile Properties of 12月 Institute, Vol.5, (著者 平居孝之、 Glass Fiber Reinforced 友沢史紀、秋浜繁幸、石井義朗)
cement pp205-210
「 GRCの引張試験に 昭和58年 第5回コンクリ-ト工学年次講演
おける載荷方法と試験体 6月 会講演論文集、(著者 平居孝之、
寸法 友沢史紀、秋浜繁幸、石井義朗), pp25-28」
350 GRCの引張試験に 昭和58年 日本建築学会大会学術講演梗概集
おける試験体破断位置 9月 (著者 平居孝之、友沢史紀、
三島清敬、秋浜繁幸、中野昌之)
330 GRCの引張試験に 昭和59年 日本建築学会大会学術講演梗概集
おけるひずみ度の測定方法 10月 (著者 平居孝之、友沢史紀、
三島清敬、石井義朗、関芳和)
334 GRCの引張試験に 平成元年 日本建築学会大会学術講演梗概集
おけるAE計測 10月 A(著者 平居孝之、桑原英一郎、
村上聖)
5-4 GRC打込み型枠の接合面に関する研究
GRCは鉄筋コンクリート構造物を造るときの型枠に使うことができる性能を有している。型枠として使い、打設したコンクリートが硬化した後に取り外すことなくそのままにして、コンクリートと一体となって部材断面の一部とする利用方法(打込み型枠)においては、コンクリートとGRC打込み型枠が十分に接合されて、必要な応力伝達性能を有している必要がある。この性能があることを試験により明らかにした。
研究成果
92 打込み型枠を用いたコ 平成6年 日本建築学会九州支部研究報
ンクリ-ト試験体の部分圧 3月 告集1993年度、第34回、
縮試験の解析その1完全弾 (著者 平居孝之、村上聖、
性体を仮定した場合 前田孝一、林俊宏)P85-88
91 打込み型枠を用いたコ 平成6年 日本建築学会九州支部研究報
ンクリ-ト試験体の部分圧 3月 告集1993年度、第34回、
縮試験の解析その2接合面 (著者 平居孝之、村上聖、
のすべりを考慮した場合 前田孝一) P89-92
87 部分圧縮試験による打 平成6年 日本建築学会大会学術講演梗
込み型枠接合面の解析 9月 概集A(著者 平居孝之、
村上聖、前田孝一、岸谷孝一)
P1085-1086
72 GRC打込み型枠 平成8年 日本建築学会構造系論文報告集、
とコンクリ-トの接合 7月 No.485、(著者 平居孝之、
面における応力伝達に 岸谷孝一、村上聖、前田孝一、徳富
関する基礎的考察 久二、何仕栄)pp17-24
78 GRC打込み型枠に関 平成8年 日本建築学会大会学術講演梗
する研究(2)接合面の応 9月 概集A、PP531-532、(著者
力伝達機構 何仕栄、平居孝之、岸谷孝一、
村上聖、前田孝一、徳富久二)
77 GRC打込み型枠に関 平成8年 日本建築学会大会学術講演梗
する研究(3)圧縮におけ 9月 概集A、PP533-534、(著者
る接合面の性能評価 平居孝之、岸谷孝一、村上聖、
前田孝一、徳富久二、何仕栄)
70 接合面に凹凸を付 平成9年 コンクリ-ト工学論文集
けたコンクリ-トのせ 7月 Vol.8, No2, PP11-18
ん断応力伝達性能に関 (著者 何仕栄、平居孝之、
する研究 村上聖、福田亮治)
62 表面にシャ-キを 平成9年 日本建築学会構造系論文報告集、
付けたガラス繊維補強 7月 No.497、
セメントパネルとコン (著者 何仕栄聖、平居孝之)
クリ-トの接合性状に pp9-15
関する研究
63 歪追従性による接合面 平成9年 日本建築学会大会学術講演
の性能評価 9月 梗概集PP821-822,(著者
何仕栄、平居孝之、福田亮治)
282 圧縮におけるコン 平成9年 大分大学工学部研究報告、
クリ-トとGRCパネ 10月 第36号、PP33-39、
ルの接合性状に関する (著者 何仕栄、平居孝之
実験的研究 村上聖)
@@ 数値解析による接合 平成10年 大分大学工学部研究報告、
面の破壊機構のシミュレ 3月 第37号、PP69-74
-ション (著者 何仕栄、平居孝之)
5-5 GRC打込み型枠を用いたRC梁の構造部材に関する研究
GRC打込み型枠を用いた鉄筋コンクリート部材を、建築の構造部材として使えることを実大部材を用いた試験などにより明らかにした。研究は村上聖氏が主となって行った。
研究成果
@@ GRC打込み型枠によ 平成7年 GRCシンポジュウム、
るRCはりの曲げ性状 2月 講演要旨集P6-10、(
著者 武田浩二、村上聖、平
居孝之、前田孝一、岸谷孝一、
三井宜之、加藤信義
229 GRC打込み型枠を用 平成7年 熊本大学工学部研究報告、第 いた鉄筋コンクリ-トはり 9月 44巻、第2号、PP111-131,
の構造特性に関する実験的 (著者 村上聖、武田浩二、
研究 平居孝之、前田孝一、岸谷孝
- 三井宜之、市村信、加藤信義)
71 GRC打込み型枠 平成8年 日本建築学会構造系論文報告集、
による鉄筋コンクリ- 9月 No.487、(著者 村上聖、
トはりの構造特性に関 平居孝之、岸谷孝一、前田孝一、
する実験的研究その1 武田浩二、三井宜之、市村信)
変形および耐荷性状 pp21-28
76 GRC打込み型枠に関 平成8年 日本建築学会大会学術講演梗
する研究(4)模型部材実 9月 概集A、PP535-536、(著者
験 徳富久二、岸谷孝一、平居孝
之、橋口隆、田中秀人)
75 GRC打込み型枠に関 平成8年 日本建築学会大会学術講演梗
する研究(5)部材構造試 9月 概集A、PP537-538、(著者
験 村上聖、平居孝之、岸谷孝一、
前田孝一、三井宜之、武田浩二)
@@ GRC打込み型枠 平成9年 日本建築学会構造系論文報告集、
による鉄筋コンクリ- 4月 No.494、(著者 村上聖、
トはりの構造特性に関 平居孝之、岸谷孝一、前田孝一、
する実験的研究 三井宜之、武田浩二)
その2負荷の下でのG pp29-36
RC打込み型枠の付着
剥離性状
66 GRC板を埋設した鉄 平成9年 日本建築学会大会学術講演
筋コンクリ-ト梁の曲げ挙 9月 梗概集PP585-587,(著者
動 徳富久二、平居孝之、橋口隆、
田中秀人)
5-6 GRC打込み型枠を用いたRC梁の耐火試験
GRC打込み型枠を用いた鉄筋コンクリート部材を、建築の構造部材として使うために、JISに規定された耐火試験を行い所定の性能があることを明らかにした。研究は藤田直明氏が主となって行った。
研究成果
@@ GRC打込み型枠の耐 平成8年 GRCシンポジュウム、
火性 2月 講演要旨集PP33-37、(共
著者 藤田直明、平居孝之、
岸谷孝一)
74 GRC打込み型枠に関 平成8年 日本建築学会大会学術講演梗
する研究(6)耐火試験 9月 概集A、PP539-540、(著者
験 藤田直明、平居孝之、岸谷孝一)
240 STUDY ON COVERING 平成10年 INTERNATIONAL CONGRESS
DEPTHS OF REINFORCED 4月 GRC 98,p4-1-1~p4-1-10,1998,4
CONCRETE BEAMS COVERED (著者 N.Fujita, T.Hirai, K.
WITH GRC BY FIRE RESISTANT Murakami)
TESTS
48 耐アルカリガラス繊 平成11年 コンクリ-ト工学論文集、
維補強セメント打込み型 9月 Vol.10, NO.3, pp47-59, 1999, 9
枠を用いたRC梁の耐火 (著者 藤田直明、平居孝之、
性能に関する考察 村上聖、佐藤嘉昭)
233 耐アルカリガラス繊維 平成13年 Reports of the Research Laboratory,
補強セメント打込み型枠を 5月 Asahi Glass Co.,Ltd.、
用いたRC梁の耐火性能に 51(2001),pp71-101
関する研究 (著者 藤田直明、平居孝之)
5-7 GRC打込み型枠の適用に関する研究
GRC打込み型枠を用いた鉄筋コンクリート部材を、建築の構造部分に適用するための研究を行った。
GRCの中性化に関する研究は依田彰彦氏が中心になって行った。
研究成果
@@ 構造用GRC打込 平成6年 GRCレビュ-第13号
み型枠 12月 PP13-14、、平居孝之ほか3名
@@ GRC打込み型枠 平成7年 日本GRC工業会
調査・研究委員会報告書 3月 pp1-157,(著者 平居孝之、
前田孝一、村上聖他12名)
263 GRC打込み型枠の 平成9年 GRCレビュ-、第19号、
適用 12月 PP10-12 著者 平居孝之
@@ GRC打込み型枠を使 平成9年 GRCシンポジュウム、
用したRCの中性化試験( 2月 講演要旨集PP51-54、(共
- 著者 依田彰彦、横室隆、平
居孝之、藤田直明)
@@ GRC打込み型枠を使用 平成10年 第10回GRCシンポジウム
したRCの中性化試験Ⅱ 2月 講演要旨集、pp51-54
(著者 依田彰彦、横室隆、
平居孝之、藤田直明)
53 GRC打込み型枠を 平成10年 コンクリ-ト工学年次論文報告集、
使用した梁の施工に関す 7月 Vol.20,No.2,(著者、竹内好雄、藤田
る考察 直明、平居孝之)PP1219-1224
@@ GRC込み型枠を使用 平成11年 第11回GRCシンポジウム講演
したRCの中性化試験Ⅲ 2月 要旨集、pp1-4、(著者、依田
彰彦、横室隆、平居孝之、藤田直明)
261 GRC打込み型枠研究 平成11年 日本GRCV工業会 全31頁
委員会報告書 3月 著者 平居孝之、依田彰彦、村上聖、
松本行夫、藤田直明、伊藤哲郎、石井卓郎、藤井洋、竹内好雄、三島清敬
@@ GRC打込み型枠を使用 平成14年 第14回GRCシンポジウム講演要旨集
したRCの中性化試験(Ⅳ) 3月 pp44-47、(著者 依田彰彦、横室隆、
平居孝之、加藤信義)
260 GRC打込み型枠を使用 平成17年 月刊コンクリートテクノ 26巻 11号
したRCの中性化試験―10 11月 pp33-38、(著者 依田彰彦、横室隆、
年間の試験結果― 平居孝之、相子恒夫)