2)コンクリートの強度試験方法と破壊に関する研究
2-1 研究の背景
コンクリートの強度試験方法は、種々のものがJIS(日本工業規格)に定められている。円柱や角柱のコンクリート試験体に、強制変形を与えたときに加えている荷重から破壊部分に生じている応力度を材料力学で計算し、破壊までに耐える最大荷重のときの応力度をもって強度とする試験方法である。
断面の平面保持を仮定した材料力学は誤差を含むのが、その誤差の大きさに関する研究はされていなかった。さらに、試験体の形状や加重方法が標準的なものでないときは、破壊部分の応力度を詳しく求めることができていなかった。このため、前述のように固体の変形と応力を弾性力学で精度よく数値計算できるソフトの開発研究を行い、それを使って研究した。
また、コンクリートに破壊力学を適用して、強度と破壊について調べることが望まれていた。
2-2 コンクリートの強度試験方法に関する研究
コンクリートの割裂引張試験における試験体に生じる応力を数値計算して、試験結果と比較して考察し、はり形試験体の折片を利用して割裂引張強度を測定することが可能であることを示した。
コンクリートの曲げ試験で、変形と応力や応力拡大係数を数値計算し、支承部拘束などの影響を考察した。曲げ試験における試験体の曲げ破壊開始箇所は、ミクロ的には引張破壊と関連するので、曲げ引張強度と割裂引張強度の関係の解明を試みたが、成果は出ていない。
コンクリート試験体にせん断形式の荷重を作用させた試験を行い、試験体に生じる応力を数値計算で出し、破壊するときの最大荷重から強度を導いたが、それをコンクリートのせん断強度と見なすのは難しかった。
コンクリート試験体の圧縮試験方法に関して、JISの試験方法に定められた載荷面平面度の影響を、応力の数値計算と実験から調べて明らかにした。
圧縮試験体の載荷面の平面度が凸であると、試験体の内部に引張応力が生じるので、その位置で破壊が始まるときに発生する音のモニタリングをAE計測試験装置を使って試みたが、意図する試験結果は得られなかった。
円柱のコンクリート試験体を垂直に立てて上下から圧縮する標準的な試験において、試験体上方の円錐型の部分が他方にめり込む(楔のように押し込む)様に破壊する様子や、あるいは縦に割れて破壊する様子を見て、他の部分より組織が密でない粗骨材とセメントマトリックスの界面(接合面)から、破壊が生じるのではないかと考え、骨材との付着を考慮した変形と応力の解析を試みた。
コンクリートの強度試験方法に関する以上の研究は、コンクリートの破壊を調べるのに参考になったが、結論的な成果は得られなかった。例えば、コンクリートの破壊がせん断応力で生じるかどうかという根本的な問題の解明に役立たなかった。
研究成果
218 コンクリ-トの割裂 昭和49年 日本建築学会論文報告集
引張試験に関する考察( 10月 No.224
半無限板法による試験体 (著者 岸谷孝一、平居孝之)
内部応力度の弾性解析) pp1-8
224 半無限板法による割 昭和49年 日本建築学会関東支部研究報告集
裂引張試験供試体内部応 3月 (著者 岸谷孝一、平居孝之)
力度の弾性解析
193 逆対称載荷されたは 昭和56年 日本建築学会中国・九州支部研究
りの内部応力度-無限平 3月 報告第5号 著者 平居孝之
板法による解析-
186 コンクリ-トの曲げ 昭和57年 日本建築学会大会学術講演梗概集
強度に関する研究(支承 10月 (著者 岸谷孝一、平居孝之、村上聖)
部の拘束条件と応力拡大
係数)
187 コンクリ-ト直接二 昭和57年 日本建築学会大会学術講演梗概集
面せん断試験の解析 10月 (著者 岸谷孝一、平居孝之、村上聖)
180 コンクリ-トの各種 昭和58年 日本建築学会関東支部研究報告集
強度試験法に関する研究 7月 (著者 岸谷孝一、平居孝之、村上聖)
178 コンクリ-トの曲げ 昭和58年 日本建築学会大会学術講演梗概集
強度試験法に関する研究 9月 (著者 岸谷孝一、平居孝之、村上聖)
176 コンクリ-トの衝撃 昭和59年 日本建築学会中国・九州支部研究
試験のための波動方程式 3月 報告第6号(著者 永松静也、
の数値計算に関する研究 黒野薫、平居孝之、佐藤嘉昭)
172 骨材との付着を考慮 昭和59年 日本建築学会大会学術講演梗概集
したコンクリ-ト円柱供 10月 (著者 岸谷孝一、平居孝之、村上聖)
試体の三次元弾性解析
(その1計算方法)
171 骨材との付着を考慮 昭和59年 日本建築学会大会学術講演梗概集
したコンクリ-ト円柱供 10月 (著者 岸谷孝一、平居孝之、村上聖)
試体の三次元弾性解析
(その2解析結果)
141 コンクリ-ト圧縮試 昭和63年 日本建築学会研究報告九州支部
験体の載荷面平面度の影 3月 第30号・1、構造系
響に関する研究 (著者 平居孝之、石田孝一、中村藤雄)
(その1二次元解析) p1ー4
140 コンクリ-ト圧縮試 昭和63年 日本建築学会研究報告九州支部
験体の載荷面平面度の影 3月 第30号・1、構造系
響に関する研究 (著者 平居孝之、石田孝一、森江昭則)
(その2三次元解析) p5-8
139 コンクリ-ト圧縮試 昭和63年 日本建築学会研究報告九州支部
験体の載荷面平面度の影 3月 第30号・1、構造系
響に関する研究 (著者 平居孝之、村上聖)
(その3実験) p9ー12
135 コンクリ-ト圧縮試 昭和63年 日本建築学会大会学術講演梗
験体の載荷面平面度の影 10月 概集A(著者 平居孝之、石田孝一、
響に関する研究 中村藤雄)
(その1二次元解析)
134 コンクリ-ト圧縮試 昭和63年 日本建築学会大会学術講演梗
験体の載荷面平面度の影 10月 概集A(著者 平居孝之、石田孝一、
響に関する研究 森江昭則)
(その2三次元解析)
133 コンクリ-ト圧縮試 昭和63年 日本建築学会大会学術講演梗
験体の載荷面平面度の影 10月 概集A(著者 平居孝之、村上聖)
響に関する研究
(その3実験)
@@ コンクリートの応力 昭和63年 西日本構造解析研究会
分布と耐圧強度 8月 第102回 著者 平居孝之
130 凹凸載荷面をもつコ 平成元年 日本建築学会大会学術講演梗
ンクリート圧縮試験体の 10月 概集A(著者 平居孝之、家藤太志、
AE計測(その1AE発 石田孝一)
生位置)
129 凹凸載荷面をもつコ 平成元年 日本建築学会大会学術講演梗
ンクリート圧縮試験体の 10月 概集A( 著者 村上聖、平居孝之)
AE計測(その2AE発
生過程)
2-3 コンクリートの破壊力学に関する研究
コンクリートの強度と破壊現象の解明は、2-2で述べた変形と応力の数値計算や実験では不十分であり、破壊力学を適用した研究が必要であると考えた。これについて、村上聖氏が中心になって多くの研究を行い、研究成果を得た。それらで、平居孝之は数値計算をサポートした。
研究成果
@@ コンクリ-の破壊 昭和59年 第38回セメント技術大会
靭性に関する研究 5月 著者 岸谷孝一、村上聖、平居孝之
274 コンクリ-の破壊 昭和59年 セメント技術年報38、pp309-312
靭性に関する研究 12月 (著者 岸谷孝一、村上聖、平居孝之)
@@ コンクリ-トの破壊 昭和60年 第39回セメント技術大会
靭性評価(J積分評価法 4月 (著者 岸谷孝一、村上聖、平居孝之)
に関する研究
@@ J-integral analysis 昭和60年 Interntional Conference on Fracture
of stress intensity 10月 Mechanics of Condrete, Lausanne,
factor of concrete (著者 岸谷孝一、平居孝之、村上聖)
p205-208
161 コンクリ-トの破壊 昭和60年 日本建築学会大会学術講演梗概集
力学モデル解析(その1 10月 A(著者 村上聖、平居孝之)
等価 Dugdaleモデルによ P181
る逐次解析)
160 コンクリ-トの破壊 昭和60年 日本建築学会大会学術講演梗概集
力学モデル解析(その2 10月 A(著者 村上聖、平居孝之)
J積分評価法との関連) P183
273 コンクリ-の破壊 昭和60年 セメント技術年報39
靭性評価(J積分評価 12月 (著者 岸谷孝一、村上聖、平居孝之)
法)に関する研究 pp373-379
272 「A Study on Esti- 昭和60年 CAJ Review of The 39th General
mation of Fracture 12月 Meeting / Technical Session
Toughness (J-integral (著者 岸谷孝一、平居孝之、村上聖)
Estimation) for Concrete pp116-119」
@@ コンクリートの破壊 昭和61年 第91回西日本構造解析研究会
力学に関する二、三の研究 1月 著者 岸谷孝一、村上聖、平居孝之
159 破壊力学モデル解 昭和61年 日本建築学会構造系論文報告集
析に基づく間接評価( 2月 No.360
コンクリートの破壊靭 (著著者 岸谷孝一、平居孝之、村上聖)
性評価に関する研究) pp10-16
158 コンクリ-トのひび 昭和61年 日本建築学会九州支部研究報告
われ抵抗性に関する破壊 3月 著者 岸谷孝一、村上聖、平居孝之)
力学的研究(その1.骨
材のクラックアレスター
作用の定量化)
157 コンクリ-トのひび 昭和61年 日本建築学会九州支部研究報告
われ抵抗性に関する破壊 3月 (著者 岸谷孝一、村上聖、平居孝之)
力学的研究(その2.繊
維補強効果の定量化)
154 コンクリ-トの破 昭和61年 日本建築学会構造系論文報告集
壊力学に関する研究( 10月 No.368
その1破壊課程域の損 (著者 岸谷孝一、村上聖、平居孝之)
傷解析) pp11-17
152 コンクリ-トの破 昭和62年 日本建築学会構造系論文報告集
壊力学に関する研究( 4月 No.374
その2 J積分評価にお (著者 岸谷孝一、村上聖、
ける直接および間接的 平山善吉、平居孝之)
評価) pp10-16
138 コンクリ-トの破 昭和63年 日本建築学会構造系論文報告集、
壊力学に関する研究( 4月 No.386、
その3調合因子がひび (著者 岸谷孝一、村上聖、平居孝之)
割れ抵抗性に及ぼす影響) pp1-6
132 コンクリートの破壊 平成元年 日本建築学会九州支部研究報告
靭性評価に関する研究 3月 著者 村上聖、岸谷孝一、平居孝之
(J積分と破壊エネルギ p113-116
ーとの関連)
131 コンクリ-トの破 平成元年 日本建築学会構造系論文報告集
壊靭性評価に関する研 8月 No.402、
究-J積分と破壊エネ (著者 村上聖、岸谷孝一、平居孝之)
ルギ-との関連- pp21-26
120 J等価Dugdaleモデル 平成2年 日本建築学会大会学術講演梗
によるコンクリ-トの破壊 10月 概集A( 著者 岸谷孝一、
力学解析 村上聖、岸谷孝一、平居孝之)
107 結合力モデル解析 平成3年 日本建築学会構造系論文報告集
におけるJ等価Dugdale 8月 No.426、
モデルの妥当性に関す (著者 村上聖、岸谷孝一、平居孝之)
る解析的検証 pp9-14
99 破壊エネルギ-の 平成5年 日本建築学会構造系論文報告集
物理的意味とその評価 3月 No.445、
コンクリ-トの破壊エ (著者 村上聖、岸谷孝一、平居孝之)
ネルギ-に関する研究 pp11-18
88 コンクリ-トへの結合 平成6年 日本建築学会大会学術講演梗
力モデルの適用-解析の定 9月 概集A( 著者 村上聖、浦
式化と解析例- 野登志雄、三井宜之、岸谷孝
一、平居孝之)P859-860
16 RILEM法による破壊 平成16年 日本建築学会構造系論文報告集
エネルギーの試験体寸法依存 11月 No.585、p1-6
性に関する考察 著者 村上聖、平